人手が足りない中で、AIに仕事を任せられないか。そう考えている経営者の方は多いと思います。私もその一人でした。最近のAIは、質問に答えるだけでなく、頼めば仕事をまるごと進めてくれるようになっています。うまく使えば、採用できなかった人の代わりになるかもしれません。

ただ、実際に社員に渡してみると、思ってもみなかったところで止まりました。AIが失敗したからではありません。AIの出してきたものが、よくできすぎていたからです。

この記事では、2026年8月から自社で試して分かったことを書きます。

この記事でわかること

  • 「聞けば答えてくれるAI」と「任せればやってくれるAI(AIエージェント)」の違い
  • AIエージェントの成果物に、社員がOKを出せなくなる理由
  • 渡す前に決めておくこと、社内で育てておくこと

【結論】AIエージェントは、会社としてできる範囲を知らない。だから、判断は人が引き受ける

AIエージェントは、頼まれた仕事を、いつでも全力で、ものすごい速さで仕上げてきます。プレスリリースを頼めば、広報の戦略から、出す前の準備、出したあとの活動の計画、目標の数字、予算まで作り込んでくることもあります。ただし、その会社の力量も、人手も、予算も、お客さんの事情も知りません。 だから、出てくるものが会社としてできる範囲を超えてしまうことがあります。

そのとき、受け取った社員は判断に迷います。文章の良し悪しなら分かる。でも、予算は足りるのか、お客さんは本当にそこまでやりたいのか、うちで対応できるのか。判断しなければいけない範囲が、一気に広がるからです。

OKを出せなくなる原因は、大きく3つありました。

原因いまここで止まっているかの見分け方対策
1. 案件ごとの条件を、誰も決めていないAIに頼む前に「予算」「お客さんがやりたいこと」「うちで手伝える範囲」を一行ずつ書けるか条件は人が決めて、頼む前に書いておく
2. 受け取る人が、その仕事の全体を知らない担当者が、その仕事を一度でも自分で最後までやったことがあるか仕事の範囲を先に知ってもらう。一度は自分でやってみる
3. 判断した経験が足りない成果物を前に「これで合っているんだろうか」と手が止まっていないか上司が一緒に見て、一緒に迷う

多くの場合、AIを渡すところから始めて、この3つを後回しにします。 私もそうでした。

株式会社ダブルノット 代表 髙林努

この記事を書いた人

地産外商請負人® 株式会社ダブルノット/DX学校豊岡校 代表 髙林 努

株式会社ダブルノットの髙林努です。鳥取県八頭町と兵庫県豊岡市を拠点に、地域の商品や技術を全国へ届ける「地産外商」の伴走支援をしています。地産外商とは、その土地で生まれたものを、その土地の外へ届けて売る取り組みのことです。中小企業向けの生成AI講座も行っており、あわせてDX学校豊岡校の代表として、IT導入診断士の資格で中小企業のIT導入に並走しています。この記事は、私が自社で実際にAIエージェントを作り、社員に渡して確かめたことをもとに書いています。

「聞けば答えてくれるAI」と「任せればやってくれるAI」の違い

ひと口にAIと言っても、2026年に入って中身がずいぶん変わりました。人にたとえると分かりやすいと思います。

これまでのAIは、とても物知りな相談相手でした。質問すれば、すぐに答えを返してくれる。文章も書いてくれる。ただ、手は動かしません。返ってきた文章をコピーして書類に貼るのも、メールを送るのも、ホームページを直すのも、最後は自分です。何をどう聞くかを決めるのも、その答えを使うかどうかを決めるのも、全部こちらでした。

最近のAIは、仕事を任せられる部下のようになってきました。「これ、やっといて」と頼むと、自分で段取りを考えて、必要な資料を探し、書類を作って保存し、終わったら「できました」と報告してきます。途中でうまくいかなければ、別のやり方を試してから戻ってきます。

たとえばプレスリリースなら、「新商品のリリース文を考えて」と聞けば、文章が一本返ってくる。これがこれまでのAIです。最近のAIには、「新商品のプレスリリース、作っといて」と頼めます。すると、商品の資料や過去のリリースを自分で見に行って、Wordのファイルにまとめ、載せる画像を選び、必要なら図や表も自分で作って、すぐに発表できる形に整えて「確認してください」と持ってきます。

これだけでも、全然違います。でも、最近のAIができるのは、ここまでではありません。広報の仕事を覚えさせておくと、リリースを書く前に広報の戦略から考え始め、出す前の準備や、出したあとの活動、目標の数字、予算まで作り込んできます。プロの広報担当者がやる仕事を、まるごとやろうとするわけです。

違いを表にすると、こうなります。

プレスリリースを頼んだときの比較表。これまでのAIは文章が一本返ってくる。最近のAIは、画像・図表入りのリリースをすぐ発表できる形にし、自分で資料を集めてファイルにまとめ、広報の戦略から考え、出す前の準備と出したあとの活動計画、目標の数字と予算まで作る。
同じプレスリリースを頼んでも、これまでのAIと最近のAIでは、返ってくるものの範囲がこれだけ違います。

この「任せればやってくれる」タイプのAIを、AIエージェントと呼びます。エージェントは代理人という意味で、人の代わりに仕事を進めてくれるAI、くらいに受け取ってもらえれば十分です。

「こんな人がいてくれたら」を作って、社員に渡してみた

2026年の夏、毎朝AIと仕事をしていて、「これはいけるな」と思った瞬間がありました。職場でよく言う「あれやっといて」が、AIにも通じるようになってきたんです。最初に一回だけきちんと教えておけば、次からは「あれお願い」で動いてくれる。新人に仕事を教えるのと、ほとんど同じです。

AIエージェントを作るというのは、言ってみれば「こんな人がいてくれたらいいのに」という人を、自由に採用できるようなものです。地方の小さな会社だと、欲しい人がいても、なかなか採用できません。それが、「こういう経験があって、こういう文章が書けて、ここに気をつけてくれる人」と決めて書いておけば、その通りの人が明日から働いてくれます。

それで2026年8月ごろから、社員にも作って渡し始めました。最初に作ったのは「広報担当者」です。お客さんのプレスリリースを書いてくれる人。これを、当社のネットショップの担当者に渡しました。これで一気に仕事が進む。人手の足りない地方の会社には、決定打になる。正直、そう思っていました。

できあがってきたのは、プレスリリースだけではなかった

頼むことはできるし、会話もできます。広報担当者のエージェントは、頼まれたことを「こういうことですよね」と確認までしてくれる。そして、できあがってきたのは、プレスリリースだけではありませんでした。画像や図表の入ったリリースに加えて、広報の戦略、出す前の準備、出したあとの活動の計画、目標の数字、予算まで。どれも本当によくできていて、おかしなところはほとんどありません。

ただ、よすぎたんです。中身を見ていくと、出したあとの活動の量も、目標の数字も、そのための予算も、もともと考えていた予算や、お客さんがこれからやろうとしていること、当社として手伝えることを、ひと回り超えていました。このまま進めたら、想定していなかったことまで、この先やらなければいけなくなる。それくらい、いい計画でした。

担当者は、そのリリースを前に「これで合っているんだろうか」という不安な顔をし始めました。無理もないと思います。文章の良し悪しなら判断できる。でも、予算は足りるのか、お客さんは本当にそこまでやりたいのか、うちで対応できるのか。そこまで一気に判断しなければいけなくなったわけです。

見分け方:AIが出してきたものを見て、社員が「すごいですね」とは言うのに、「これで進めます」とは言わない。そうなっていたら、判断の範囲を超えています。

なぜOKを出せないのか。AIエージェントには「発注額」がない

考えてみれば、当たり前の話でした。私は、自分の頭の中にある「理想の広報担当者」を、そのまま作って渡したんです。理想の広報担当者は、最高のリリースを書こうとします。でも、当社の力量も、人手も、予算も、お客さんの事情も知りません。つまり、会社としてできる範囲を知らないんです。

人間のプロなら、ここまでのことにはなりません。外に仕事をお願いするときは、こちらから最初に「今回はこのくらいの金額でお願いしたい」と、発注額を伝えます。相手はその金額に見合った内容で提案してくるので、そんなに無茶なものは出てきません。部下として来た人でも、「この会社なら、今回はここまでだろうな」と、温度感を分かって動いてくれます。

AIエージェントには、発注額がありません。だから、金額に合わせて仕事を加減する、ということがない。自分がやるべき仕事を、いつでも全力で、正論どおりに、ものすごい速さでやってきます。空気を読んで、手加減はしてくれないんです。

人間の外注先・部下AIエージェント
仕事の大きさの決まり方伝えられた発注額や、会社の温度感に合わせる伝えられなければ、理想の形で全力を出す
出てくるもの会社としてできる範囲に収まりやすい範囲を超えることがある
受け取る側に要るもの出来の確認出来の確認に加えて、「うちでやれるか」の判断

AIを相談相手として使っていたころは、こうはなりませんでした。自分でもできる仕事を早くやってもらっていただけなので、自分が考えている範囲からはみ出すことがなかった。でもAIエージェントは、こちらの想像を超えたものを出してきます。その結果、社員が判断しなければいけない範囲を、一気に広げてしまうんです。

私はずっと、講座やセミナーで「AIは部下だ」と話してきました。それは今でも間違っていないと思っています。ただ、部下のほうが上司より仕事ができるようになったとき、上司はどうやってOKを出すのか。そこまでは考えていませんでした。

「広報担当者って、こういうこともやるんですね」

これは、担当者のせいではありません。作って渡したのは、私です。

AIエージェントに覚えさせられるのは、広報担当者としての仕事のやり方です。リリースの組み立て方、言葉の選び方、気をつけること。ここまでは、作って渡せます。でも、実際に一本のリリースを頼むときには、その案件ごとの条件が要ります。予算はいくらまでか。お客さんは、これから何をやりたいのか。当社は、どこまで手伝えるのか。これは案件ごとに違うので、AIエージェントに覚えさせておくことはできません。お客さんと話して、人が決めるしかない。

振り返ってみると、私がやったのは、ネットショップの担当者の下に、広報のプロを一人つけた、ということでした。当社には、これまでそんな組み合わせはありません。ネットショップの担当者が、広報のプロを部下に持つ。担当者にとっても、初めての経験です。

広報のプロは、広報として理想的なことを次々に出してきます。それ自体は間違っていない。でも担当者にとっては、自分の経験の外の話です。あとで話をしていたとき、担当者がぽつりと言いました。

「広報担当者って、こういうこともやるんですね」

担当者は、広報の仕事がどこまでの範囲なのかを、一部しか知らなかったんです。リリースを書くことは知っていても、出す前の準備や、出したあとの活動、目標の数字の置き方までは、やったことがありませんでした。知らない仕事の話を、理想の形で次々に出されたら、それが今回の条件に合っているのかどうか、判断のしようがありません。AIエージェントが、担当者の経験を超えてしまったんです。

見分け方:渡そうとしている仕事を、受け取る社員は一度でも自分で最後までやったことがあるでしょうか。ないなら、AIエージェントの前に、その仕事の全体を知ってもらうところから始めたほうが早いと思います。

OKを出す力を育てる3つのこと

では、どうすればいいのか。今の時点で私が考えていることです。

1. 案件の条件は、頼む前に人が決めて書いておく

AIエージェントに頼む前に、その案件の条件を人が決めて書いておきます。予算はいくらまでか。お客さんは、これから何をやりたいのか。当社は、どこまで手伝えるのか。最初のうちは担当者ひとりに決めさせず、上司が一緒に決めます。一行ずつでも自分たちの言葉で書いてから頼めば、出てきたものがどれだけ立派でも、「これは条件を超えている」と言えます。

2. 上司が一緒に見て、一緒に迷う

OKを出す力は、結局、自分で判断した回数でしか育たないと思います。だから上司は、答えを教えるのではなく、できあがったものを一緒に見て、一緒に迷う。「どこで迷った?」と聞く。迷ったところが、その人がまだ見分けられないところなので、責めずに、そこを一緒に埋めていきます。

3. 人を育てたい仕事は、途中で一度、人に戻す

場合によっては、AIエージェントに一気に完成品まで作らせず、途中で一度、人に戻すのもありだと思っています。遠回りですが、人が考える場面が残ります。急ぎの仕事は任せきって、人を育てたい仕事はあえて途中で止める。仕事によって使い分ける形です。

自社で試して分かったこと

2026年8月から、当社で社員にAIエージェントを渡してみて、いちばん考えさせられたのは「止まってくれて、よかった」ということでした。

今回は、担当者が不安な顔をして止まってくれました。止まってくれるなら、まだ話ができます。怖いのは、「いいリリースができた」と、そのまま出してしまうことです。出したあとで、予算も人手も足りないことに気づく。

よく「最後は人間が確認しましょう」と言われます。その通りです。でも、自分より仕事ができる人の仕事は、確認しようにも、どこを見ればいいのかが分かりません。

リリースを見て「うちでは、そこまではできない」と言えるのも、結局は、予算を組んだり、お客さんと話したりしてきた経験があるからです。だから、AIエージェントに任せる前に、その仕事を一回は自分で最後までやってみる。手間はかかりますが、それがOKを出す力のもとになります。

好奇心があるからやってみる、のではないと思うんです。やってみるから、気になることが増える。手を出して、たたかれて、初めて「なぜダメだったのか」が気になり始める。AIの時代になっても、まずはやってみる、という順番は変わりませんでした。

まとめ

  • 最近のAIは「聞けば答えてくれる相手」から「任せればやってくれる部下(AIエージェント)」に変わってきた
  • プレスリリースを頼んでも、戦略、出す前の準備、出したあとの活動計画、目標の数字、予算まで作り込んでくる
  • AIエージェントは、会社の力量・人手・予算・お客さんの事情を知らない。だから成果物が、会社としてできる範囲を超えることがある
  • 人間の外注先や部下は発注額や温度感で仕事を加減するが、AIエージェントには発注額がない
  • その結果、受け取る社員が判断しなければいけない範囲が一気に広がり、手が止まる
  • 案件ごとの条件(予算・お客さんのこれから・手伝える範囲)は、AIに覚えさせられない。人が決める
  • 受け取る人がその仕事の全体を知っているかを、渡す前に確かめる
  • OKを出す力は、判断した回数でしか育たない。上司が一緒に見て、一緒に迷う

よくあるご質問

Q. AIエージェントは、どうやって作るのでしょうか。

AIに、その仕事の「やり方」を文章で書いて覚えさせます。たとえば広報担当者なら、どんな順番でリリースを組み立てるか、どんな言葉を使うか、何に気をつけるか、どの資料を見てよいか、といったことです。当社では、Claude Code(クロードコード)というAIの道具を使って、業務ごとに作っています。書く中身そのものも、AIと相談しながらまとめられます。

ただ、この記事で書いたとおり、覚えさせられるのは仕事のやり方までです。案件ごとの予算やお客さんの事情は、使うたびに人が決めて伝える必要があります。作ることよりも、渡したあとの使い方を決めるほうに時間をかけたほうがいい、と今は考えています。

Q. AIエージェントを社員に渡すのは、まだ早いのでしょうか。

早いとは思いません。人手の足りない会社ほど、使える場面は多いと思います。ただ、渡す前に確かめておきたいことが2つあります。案件ごとの条件を誰が決めるのか。受け取る社員が、その仕事の全体を知っているか。この2つが決まっていれば、止まったときにも話ができます。

Q. どんな仕事から任せるのがよいですか。

受け取る社員が、一度自分で最後までやったことのある仕事からをおすすめします。出てきたものの良し悪しを、自分の経験で判断できるからです。反対に、社員が経験していない分野の仕事を、いきなりAIエージェントに任せると、今回の私のように判断の範囲を超えやすくなります。

Q. 相談だけでもお願いできますか。

はい。AIを入れたいが、どの仕事から、誰に任せればいいのか分からない、という段階でのご相談が一番多いです。課題が整理されていない状態で構いません。

AIに仕事を任せる準備を、一緒に進めます

社員の方が、AIへの頼み方や、自社の資料をAIに読ませる基本から身につけたい場合は、生成AI初級編講座をご覧ください。実際の業務にAIを載せて、案件ごとの条件の決め方や、成果物の受け取り方まで自社の仕事で一緒に進めたい場合は、伴走支援という形もあります。

まだ依頼を決めていない段階でも構いません。何から任せればいいのかを整理するところからで大丈夫です。お問い合わせからお声がけください。

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