「社員がAIを使ってくれない」。この1年、経営者の方からいちばん多くいただく相談です。研修もやった、ツールも契約した、それでも定着しない。
この記事でわかること
- 社員がAIを使ってくれない本当の原因
- AIに仕事を任せられる会社になるまでの「4つの段階」と、自社が今どこにいるかの見分け方
- 私が自社で実際に試して分かった、「あれやっといて」が通じるようになる条件
【結論】原因はやる気ではなく「順番」。多くの会社は4段階の1つ目で止まっている
社員がAIを使ってくれない原因は、社員のやる気でも、年齢でも、ITが苦手な社風でもないことがほとんどです。原因は、順番です。 AIに仕事を任せるまでには4つの段階があり、会社がまだ1段階目しか用意していないのに、社員に4段階目の成果を期待している——このズレが正体です。
| 段階 | やること | 自社がここで止まっている見分け方 |
|---|---|---|
| 1. 上手な頼み方を磨く | 指示の書き方を工夫する | 社員が毎回ゼロから指示文を書いている |
| 2. 背景と資料を渡す | 自社の資料をAIに読ませる | AIに渡せる形の資料が社内に無い |
| 3. 職場環境を整える | 保存場所・道具・判断のルールを決める | AIの作った物がチャット画面の中で完結している |
| 4. 任せて、見守る | 目標を渡し、報告を受け、直してもらう | 「あれやっといて」で仕事が進むかどうか |
これは会社で人を育てる順番とまったく同じです。以下、順にご説明します。

AIは「優秀だけど、自社を何も知らない中途社員」
私たちは生成AI(ChatGPTなどの、文章で対話できるAI)を、経営者の方にこう説明しています。「優秀だけど、自社のことを何も知らない中途社員」です。能力は高い。でも、おたくの商品のことも、お客様のことも、社内のやり方も知りません。だから、良い仕事をしてもらえるかどうかは、AIの性能ではなくこちらの教え方で決まります。そして教え方には順番があります。
段階1:上手な頼み方を磨く
新人への「声のかけ方」を工夫する段階です。指示を具体的に書く、やってほしい役割を伝える、答えてほしい形式を指定する。世の中のAI研修で教わるのは、たいていここです。
この段階が悪いわけではありません。ただ、頼み方がどれだけ上達しても、毎回こちらが声をかけないと何も始まりません。「AIを使うより自分でやったほうが早い」という社員の声は、段階1に留まっているサインです。
段階2:背景と資料を渡す
頼む前に、経緯・前提・判断基準・参考資料を渡す段階です。中途社員に見積書を頼むとき、いきなり「作って」とは言わないはずです。過去の見積書を見せて、値付けの考え方を伝えてから頼みます。AIにも同じことをします。
実は、社内にAIが浸透しない原因の多くはここにあります。社員が悪いのではなく、AIに渡せる形の資料が社内に無いのです。この状態でいくら研修をしても、定着はしません。
段階3:職場環境を整える
AIが働くための机と道具を用意する段階です。作った書類を保存する場所を決める。「この範囲は自分で判断していい、ここから先は人に確認する」という決まりを引く。新人に机もパソコンも渡さずに「成果を出せ」と言う会社は無いはずで、AIにも同じ準備が要ります。
今年に入って、ここが大きく変わりました。以前のAIは、渡した資料を「読んで、答える」だけでした。今のAIは、自分でファイルを作り、直し、保存して、次の仕事ではその保存したものを見ながら進めます。読むだけだった中途社員が、机に座って書類を作り、棚に戻すようになったわけです。
段階4:任せて、見守る
目標を伝えて、進めてもらい、報告を受けて、必要なら直してもらう段階です。人が毎回指示するのではなく、AIが自分で仕事を回し、人は外から見守ります。世の中で「AIエージェント」と呼ばれ始めているのは、この段階のAIのことです。新しい別物が生まれたのではなく、同じ道の4つ目の段階だと考えると、身構えなくてすみます。
自社で試して分かったこと:「あれやっといて」が通じるまで
私自身、この夏(2026年7月〜8月)に自社で段階3と4を実際に試してきました。メルマガの原稿づくりから画像の制作、公開の準備までを、AIに任せる仕組みに組み替えています。そこで実感したことがあります。
人間社会の「あれやっといて」が、いよいよAIにも通じるようになってきました。ただし条件があります。いきなり「あれ」と言っても通じません。 最初の一回だけ、「あれ」の全体像を言葉にする必要があります。まずこうやって、次にああやって、ここだけは注意して。その説明を一度きちんとすると、次からは「あれやっといて」で通じるようになります。
新入社員への教え方と同じです。最初に一度、時間をかけて丁寧に教える。そうすれば次からは短い言葉で伝わる。AIはやっと、そういう「教えれば覚えてくれる相手」になってきました。
つまりこれは、AIの話のようでいて、実は自社の仕事を言葉にできているかという話です。部下に任せている仕事の「あれ」を、ざっくりでいいので説明できるでしょうか。それができる会社では、AIはかなりのところまで自分で進めてくれます。そしてこの言語化は、完璧である必要はありません。6割7割の出来でまず渡して、足りないところは直しながら進めれば十分です。完璧な手順書を作ろうとして一年経つより、粗くても今週始めるほうが、確実に前へ進みます。
なお、生成AIを入れると、会社の形そのものが変わります。社員一人ひとりが「AIという部下」を持つことになるからです。その話は別の記事にまとめました。
→ 社員全員が「中間管理職」になる。生成AIを入れた会社に起きる、組織のかたちの変化
まとめ
- 社員がAIを使ってくれない原因は、やる気ではなく順番です
- AIに仕事を任せるまでには4つの段階があり、多くの会社は段階1(頼み方の工夫)で止まっています
- 浸透しない会社に足りないのは研修ではなく、AIに渡せる形の資料(段階2)と、AIの職場環境(段階3)であることがほとんどです
- 「あれやっといて」は、最初の一回だけ丁寧に教えれば通じるようになります
- 仕事の全体像を言葉にする作業は、そのまま引き継ぎ書づくりや業務の棚卸しになります。AIのためだけの作業ではありません
まずは自社の仕事をひとつ選んで、新人に教えるつもりで言葉にしてみてください。そこで詰まった部分が、そのまま自社の課題です。
よくあるご質問
Q. 社員がITに苦手意識が強い会社でも進められますか?
A. 進められます。段階2は「自社の資料を集めて整える」作業が中心で、パソコンが得意である必要はありません。経営者と担当者1人の小さな体制で始めて、動く見本ができてから社内に広げるほうが、全社一斉の研修よりも定着します。
Q. どのAIツールを契約すればよいですか?
A. 道具選びは後で大丈夫です。段階1〜2のあいだは、いまお使いのChatGPTなどで十分です。順番から言えば、先に整えるべきはツールではなく「AIに渡せる自社の資料」のほうです。
Q. 自社がどの段階か分からないのですが、相談だけでも可能ですか?
A. 可能です。上の表の「見分け方」でおおよそ判定できますが、現状をお聞きして「いまどの段階か、次に何をすべきか」をお伝えするだけのご相談もお受けしています。
自社がどの段階か、確かめるところから
段階1や段階2で止まっていると感じた方は、生成AI初級編講座をご覧ください。全10時間で、AIへの頼み方から、自社の資料をAIに読ませる仕組みを実際に作ってみるところまで扱います。段階2までを、手を動かして体験できる講座です。そのうえで、整えた資料を実際の業務に載せて回していく段階3から先は、伴走支援のほうが近いはずです。月2回、御社の実際の仕事を一緒に進めていきます。
「うちはどの段階だろう」と迷う場合は、お問い合わせからご連絡ください。現状をお聞きして、いまどの段階にいて、次に何をすればよいかをお伝えするだけのご相談も承っています。依頼を決めていない段階でも構いません。
それから、こうした話は毎週メールでも書いています。「高林のつぶやき」という週刊のメールマガジンで、生成AIのことや、地域の中小企業の現場で見たこと・考えたことを、記事より少し素の言葉でお送りしています。こちらから登録できます。
地産外商請負人®
株式会社ダブルノット/DX学校豊岡校
代表 髙林 努

