自治体の方から、こんな相談を受けることがあります。「立派な施設はある。イベントもやっている。でも、続かない」「計画には関係人口を増やすと書いた。ただ、何から手をつければいいのか分からない」。

どちらも、突き詰めると同じ問いだと思っています。この地域が選ばれる理由を、どうやって作るのか。

この記事では、地方で「そこへ行くこと自体が目的になっている場所」を実際に訪ねて分かったことを書きます。うまくいっている場所には、共通する順番がありました。

この記事でわかること

  • なぜ「あの人に会いに行きたい」だけでは続かないのか
  • 施設をつくることや、来る人の数を増やすことより先にやることがある理由
  • 自分の地域がいまどの段階にいるかを確かめる、4つの見分け方

【結論】目的地は、特定の一人から始まる。数を増やすのは、そのあと

目的となる場所をつくること。この記事ではそれを「デスティネーション◯◯」と呼びます。デスティネーションは目的地という意味です。

訪ねた場所はどこも、大勢に向けた企画からは始まっていませんでした。たまたまその時期に動ける状態にあった、特定の一人から始まっています。

そして、その一人が動いたところがスタートラインであって、完成ではありません。段階は4つに分かれます。

段階やることいまここにいるかの見分け方
1動ける一人を、名指しで見つけるその人の名前を言えるか。「若手で」としか言えないなら、まだ見つけていない
2その人が動くタイミングを逃さない「そろそろ動こうと思っていて」という話が、自分に届いているか
3人ではなく、場所に結びつけるその人が休んだ日、その場所は目的地のままか
4立ち上がったあとも伴走する建物ができた時点で、支援する側の関与が終わっていないか

多くの場合、1を飛ばして「たくさん来てもらう方法」から入ります。 そして戻ってきます。

目的地として名指しされる範囲が、地域から場所へ、人へと小さくなっています。
目的地として名指しされる範囲が、地域から場所へ、人へと小さくなっています。
株式会社ダブルノット 代表 髙林努

この記事を書いた人

地産外商請負人® 株式会社ダブルノット/DX学校豊岡校 代表 髙林 努

株式会社ダブルノットの髙林努です。鳥取県八頭町と兵庫県豊岡市を拠点に、地域の商品や技術を全国へ届ける「地産外商」の伴走支援をしています。地産外商とは、その土地にあるものを、その土地の外へ売る取り組みのことです。あわせてDX学校豊岡校の代表として、中小企業向けの生成AI講座も行っています。鳥取銀行の地方創生アドバイザーも務めており、自治体の方からのご相談も受けています。この記事は、私が実際に現地を訪ね、そこにいる方から聞いたことをもとに書いています。

「あの場所」が指す範囲は、どんどん小さくなっている

JRが長く続けている「デスティネーションキャンペーン」があります。JR6社と自治体、それに地元の観光事業者が組んで、県や広い地方を単位に3か月ほどかけて売り出す、国内で一番大きな観光キャンペーンです。

ここで言う「あの場所」は、県だったり地方だったりします。ところが最近は、この「あの場所」が指す範囲が、どんどん小さくなっていると感じます。

あの地域に行きたい、から、あの地域のあの場所に行きたい、へ。さらには、あの人に会いに行きたい、へ。

JRのやり方が悪い、という話ではありません。ただ、人が名指しする単位は、県よりずっと小さくなっています。 県の単位で売り出す取り組みと、名指しされる単位のあいだに、開きが出てきているように見えます。

私自身も少し実感しています。鳥取にいるから、豊岡にいるからということで、わざわざ会いに来てくださる方がいます。ありがたいことです。

ただ、これには限界があります。人ひとりが目的地でいられるのは、その人が動けるあいだだけです。だから目的地は、最後は場所になっていかないといけません。人が場所と結びつくと、その人が休んでいる日にも、その場所は目的地であり続けます。

見分け方:その人が1週間休んだとき、その場所は目的地のままでしょうか。答えがいいえなら、まだ人に依存しています。

その店へ行くこと自体が、旅の目的になっている状態

食の世界には「デスティネーションレストラン」という言葉があります。デスティネーションは目的地という意味です。The Japan Timesが2021年から毎年10店を選んでいて、2026年で累計60店になりました。2026年に選ばれた10店のうち7店は、直近2年以内にできた新しい店だそうです。

地方にできた良い店、くらいの意味だと私は思っていましたが、現地で教わった定義はもっと厳しいものでした。

まず、決して便利な場所ではないこと。便利ではないから地方と呼ばれているわけで、そこは前提です。それでも、あのつくり手の、あの地域の食材で作る料理を食べたいと、世界中の食通が訪ねてくる。

目的は料理だけではなく、そこでの空間と時間を含めた体験そのもの。だから、宿を兼ねた形も含まれます。

つまり、その店へ行くこと自体が旅の目的になっている状態です。人ではなく、場所と時間が目的にされている。

「デスティネーション◯◯」は、意外ともうある

これはレストランに限った話ではありません。

JRのデスティネーションキャンペーン、食の世界のデスティネーションレストラン。呼び方はいろいろありますが、やっていることは同じで、目的となる場所をつくることです。

だとすれば、レストランでなくてもいいはずです。私はこれを、勝手に「デスティネーション◯◯」と呼んでいます。デスティネーション映画館、デスティネーション公民館、デスティネーション役場、デスティネーション病院、デスティネーション学校。

そんな呼び方は誰もしていませんが、あの映画館だから行く、あの先生がいるから通う、という場所は、実はもうあちこちにあるのではないでしょうか。建物の種類は、たぶんあまり関係ありません。

兵庫県の豊岡演劇祭2026は、2026年9月18日から27日までの10日間で、100以上のプログラムを上演します。会場は劇場だけではありません。出石にある古い芝居小屋、神社の境内に建てられた木造の舞台、温泉街、海岸、スキー場。2025年は町なかの信用金庫の支店が会場になり、2026年はまだ開通していない高速道路のトンネルの中で上演される演目があります。山陰近畿自動車道 浜坂道路II期の新諸寄第2トンネル、全長1,067メートルです。

さらにこの地域には、城崎国際アートセンターがあります。2014年に開設された、舞台芸術の滞在制作に特化した施設です。選ばれた人は3日から3か月まで滞在でき、その間の宿泊費もホールの使用料もかかりません。だから演劇祭の10日間だけでなく、年間を通して、都会や海外で活動している人がこの地域に滞在して制作しています。

使われていなかった芝居小屋も、まだ車の走っていないトンネルも、それ自体は目的地ではありませんでした。 そこで何かをやると決めた人がいて、はじめて目的地になっています。

ハードは作れます。ソフトをつくるのは、しがらみです

地方には、どうしようかと悩む施設がたくさんあります。でも目的地になっている場所には、必ず熱量のある人と、それに協力する地域があります。大事なのはこちらのほうです。

ハードは、お金を積めば、ある意味誰でも作れます。でもソフトは、地域の信頼と熱量がないと作れません。

ソフトというと、仕組みや制度の話に聞こえるかもしれません。でも私が見ているかぎり、その正体は人間関係です。もっと言えば、しがらみだと思っています。

しがらみというと、たいてい悪い意味で使われます。動きたいのに動けない、断りたいのに断れない。私も長いこと、そう思っていました。でも最近は、むしろ逆ではないかと思っています。

しがらみがあるということは、利害が終わったあとも切れなかった関係がある、ということだからです。仕事の付き合いは、案件が終われば普通は消えます。それでもなぜか年に一度は連絡を取っている、用もないのに長電話してしまう。そういう相手が何人いるか。あれがしがらみの正体で、同時に、信頼が積み上がった証拠です。

人が動く理由は、たいてい本人にとっての一大事です。早期退職、独立、親の介護。しかも、向こうからは知らせてくれません。知らせてくれないのに、なぜそれを掴めるのか。用のない付き合いを続けている人のところにだけ、「そろそろ動こうと思っていてね」という話が届きます。

見分け方:その話が、いま自分のところに届いているでしょうか。届いていないなら、関係が切れています。

現地を訪ねて分かったこと

2026年9月、香川県三豊市の仁尾町を訪ねました。瀬戸内海に面した、昔は塩づくりと漁で栄えた町です。

夜、古い商家の並ぶ通りを歩いていたら、焼杉の黒い板壁の一角だけに灯りがついていて、中から人の声が漏れていました。知り合いが開いたワインバーです。カウンターは5席ほど。自分が集めてきたワインを出しています。

通りから見ると、そこだけ灯りがついている。近づくと、中に人がいる。
通りから見ると、そこだけ灯りがついている。近づくと、中に人がいる。

ただ、この一軒だけの話ではありませんでした。この通りは「身の丈ストリート」と呼ばれていて、商店街をまるごと作り直す取り組みが進んでいます。中心にあるのは「セカンドレストラン」という考え方です。建物は、もう実際にできあがっていました。

資金は、DAO(ダオ)と呼ばれる仕組みで集めていると聞きました。出資した人が、どの店に入ってもらうかといったことを投票で決めていく形です。日本で初めての商店街DAOだと紹介されています。

私は最初、これを二拠点でお店をやることだと思っていました。でも、そうではないと教えてもらいました。ここでの「もう一つ」には二つの意味があります。一つは、料理人にとって、いつもと違う場所で、違う食材と、違うお客さんに向き合う場であること。もう一つは、まだ自分の店を持てていない人が、そこで初めて中心となって料理をつくる体験ができる場であること。

店を増やす話ではなく、料理人が新しい役を務める場所をつくる話でした。

なぜ都会の料理人が来るのか。事情を聞いて、腑に落ちました。競争の中で腕を磨いた人ほど、その世界に長くいると視野が狭くなるし、正直に言って疲れる。それが地方に来ると、その日に出会った食材を自由に使い、その日に会った人の話を聞きながら料理ができる。競争ではなく共創の中で作れる。 そして、その料理を待っているのは都会から来る人だけではありません。地元の人も楽しみにしています。

では、どこから手をつけるか

冒頭の相談に戻ります。施設はある、イベントもやっている、でも続かない。何から手をつければいいのか。

私がお伝えしているのは、人数の目標を立てる前に、名前を書き出してみてくださいということです。

具体的には、この3つです。

  • 地域のまわりに「もう半分だけ来ている人」がいないか思い出す。移住しきっていない、二拠点の、たまに来る人
  • 事業や案件が終わったあとも続いている付き合いを、名前で書き出す
  • その人たちが動くきっかけ(退職、独立、家業、家族の事情)を、雑談の中で聞ける関係を保つ

新しい施設を建てる前に、新しい補助金を取る前に、まずこの地域が誰にとっての目的地になれるのかを考える。 課題を見つけてから、解決方法を選ぶ。遠回りに見えて、これがいちばん早いと思っています。

まとめ

  • 目的地になっている場所は、大勢に向けた企画ではなく、動ける特定の一人から始まっている
  • 人が目的地でいられるのは、その人が動けるあいだだけ。最後は場所に結びつける必要がある
  • 目的は商品そのものだけでなく、そこでの空間と時間を含めた体験になっている
  • ハードはお金で作れるが、ソフトは信頼と熱量がないと作れない
  • その信頼の正体は、利害が終わっても切れなかった関係、つまりしがらみ
  • 立ち上がった時点はスタートラインであって、完成ではない。地域の伴走が要る
  • デスティネーション◯◯(目的となる場所)は、レストランに限らない。映画館でも公民館でも役場でも成り立つ

よくあるご質問

Q. 設備や補助金から始めてはいけないのでしょうか。

いけないということはありません。ただ、順番として後ろに来ます。建物や設備は、それ自体では目的地になりませんでした。先に「誰がそこで何をやるか」が決まっていると、同じ投資でも結果が変わります。

Q. うちの地域には「動ける一人」がいないように思うのですが。

地域の中にいないなら、外にいます。移住しきっていない、二拠点の、たまに来る人。この層の中に、いま動ける人が混ざっています。まずは、事業が終わったあとも続いている付き合いを、名前で書き出してみてください。庁内で持ち寄ると、思ったより出てきます。

Q. 相談だけでもお願いできますか。

はい。何から手をつけるべきか分からない、という段階でのご相談が一番多いです。課題が整理されていない状態で構いません。

参考にしたもの

この地域が選ばれる理由を、一緒に探します

この話を、庁内や地域の事業者の方と一緒に考える場としてお使いいただくこともできます。自治体・団体向けのセミナー・ワークショップでお伺いしています。鳥取県内と但馬エリアの講演については、内容に応じてご相談ください。地域の事業者と腰を据えて進める場合は、伴走支援という形もあります。ほかにどんなお手伝いができるかは、サービス一覧にまとめています。

まだ依頼を決めていない段階でも構いません。何が課題なのかを整理するところからで大丈夫です。お問い合わせからお声がけください。

こうした話は、毎週メールでも書いています。よろしければメルマガ「高林のつぶやき」もご覧ください。

地産外商請負人®

株式会社ダブルノット/DX学校豊岡校

代表 髙林 努