「脱炭素」は大企業の話で、うちのような小さな会社には関係ない。私もずっとそう思っていました。ところが、大企業がCO2を公表するルールが変わり、その影響が、取引先の小さな会社にまで届き始めています。何が変わり、なぜ小さな会社にまで届くのかを、できるだけやさしくまとめます。
この記事でわかること
- 大企業に、どんなルールが始まるのか
- なぜその影響が、取引先の小さな会社にまで届くのか(業種ごとの届き方)
- 聞かれたときに答えられるよう、まず何をしておけばいいか
結論から言うと、大企業の新しいルールが、仕入先への質問になって届く。答えられるよう、自分の会社の数字を一度出しておこう
大企業(時価総額の大きな上場企業)は、2027年3月期から、自分の工場の分だけでなく、仕入れた物や売った物の分までCO2を公表することになります。 そのために、大企業は仕入先に「御社は、CO2をどのくらい出していますか」と聞いてきます。小さな会社にとっては、取引先からの一通の質問として届くわけです。
| 順番 | 何が起きるか |
|---|---|
| 1 | 国が、大企業に、CO2を仕入れや売った後の分まで公表するよう求める |
| 2 | 業界によっては、CO2の大半が自分の工場の外(仕入れた物や、売った物)にある |
| 3 | 大企業は、仕入先に「CO2はどのくらいですか」と聞く |
| 4 | 小さな会社は、聞かれたときに数字で答えられるかどうかで、取引先からの見え方が変わる |

聞かれること自体は、損ではありません。ただ、答えられないと、取引が細っていくかもしれない。だからまずは、自分の会社のCO2を一度数えておくことをおすすめします。
大企業は2027年3月期から、仕入先の分までCO2を公表する
上場企業は、毎年の決算の報告書(有価証券報告書)で、CO2の話を書くことがすでに求められています。そのうえで大企業は、2027年3月期から順に、仕入れた物や売った物の分までCO2を数字で公表することが義務になりました。
その前に、会社のCO2の数え方を知っておくと分かりやすくなります。家計簿で、ガソリン代、電気代、買い物を分けて書くのと同じように、3つに分けて数えます。
| 分け方 | 何の分か | 例 |
|---|---|---|
| ① 自分で燃やした分(スコープ1) | 会社の車や機械で、燃料を燃やして出したCO2 | 社用車のガソリン、ボイラーの重油、お風呂を沸かす灯油 |
| ② 買った電気の分(スコープ2) | 発電所で電気をつくるときに出たCO2 | 事務所や工場、お店の電気 |
| ③ それ以外(スコープ3) | 仕入れた物がつくられるまでの分、運ぶ分、売った物が使われて捨てられるまでの分 | 仕入れた商品や材料、出張、売った車が走る分、売った容器が燃やされる分 |

スコープは「範囲」という意味の専門用語で、取引先から聞かれるときには、この言葉が使われます。私が驚いたのは③で、仕入れの分だけでなく、自分たちが売った物がお客さんのところで使われ、最後に捨てられるときの分まで入るんです。
会社の種類ごとに、求められていることを並べると、こうなります。
| 会社 | 求められていること | いつから |
|---|---|---|
| 大企業(東京証券取引所のプライム市場で、時価総額3兆円以上) | ①②③をすべて、決算の報告書で公表する(義務) | 2027年3月期から |
| 大企業(同じく、時価総額1兆円以上) | ①②③をすべて、決算の報告書で公表する(義務) | 2028年3月期から |
| それ以外の上場企業 | 決算の報告書に、環境や社会への取り組みの欄を設ける(義務)。①と②は「積極的に開示することが期待される」 | 2023年3月期から |
| 大きな工場や事業所を持つ会社(上場していなくても) | ①と②を、法律にもとづいて国に報告する | 以前から |
大企業のルールは、金融庁が2026年2月に決めたもので、上場企業の欄と「積極的に開示することが期待される」という考え方は、2023年1月の金融庁の決定によるものです。①と②までは、すでに数えて公表している上場企業もあります。大企業に新しく義務として加わるのが、③です。投資家に向けて、会社に関わるCO2をまるごと見せるためのもので、自分の会社の外の分まで入ります。
CO2のどこが多いかは、業界によって違う
どこが重たいかは、業界によってまったく違います。 公開されている大企業の数字を並べると、よく分かります。

数字はそれぞれ、ANA(環境省の取組事例、2022年度)、NTT東日本(2024年度)、ローソン(環境省の取組事例2022年度)、Honda(2023年度)、東レ(2024年度)が公開している資料からです。東レは①と②を合計でのみ示しています。
飛行機会社のように燃料を大量に燃やす業種は①が大半です。コンビニは、仕入れた商品などの③が8割を超えます。自動車のHondaは③が99%で、自分の工場などの分は全体の1%ほどしかありません。③が大きい会社は、自分の工場をいくら減らしても全体はあまり減らない。全体を減らしたり、正しく公表したりするには、仕入先の数字が要るわけです。
売った物が燃やされると、役所のCO2になる
ところで、CO2を数えているのは会社だけではありません。市町村も、規模に関係なく、役所の仕事から出るCO2を減らす計画をつくって公表するよう、法律(地球温暖化対策推進法)で決められています。そして、家庭から出たプラスチックのごみを燃やしているのは、市町村の清掃工場です。そこで燃やした分は、その市町村のCO2として数えます(環境省のマニュアル)。メーカーにとっては「売った物が捨てられる分」でも、燃やしている市役所にとっては「自分で燃やした分」になります。燃やすしかない製品が増えるほど、その重さは最後に役所へ回ってきます。
だから、取引先から「CO2はどのくらい?」と聞かれる
大企業の③は、仕入先の①と②の積み重ねです。だから、大企業は仕入先に数字を聞いてきます。 日本商工会議所などの調査(2026年7月公表)では、取引先から脱炭素の求めを受けている中小企業は14.2%、製造業では26.0%でした。製造業なら、すでに4社に1社です。求めを受けている会社のうち4割強は、取り組みが事実上の取引の条件になっていると答えています。
製造業でなくても、形を変えてやってきます。
| 業種 | こんな形でやってくる |
|---|---|
| 製造業 | 納め先の大企業から、製品や工場のCO2を聞かれる |
| 建設業・運送業 | 重機やトラックの燃料が多く、燃料代がそのまま経営に効く。建設業は、取引先から脱炭素を求められている割合も高いほう(15.3%) |
| 介護・福祉・医療 | 空調やお風呂の電気・燃料が多い。値段が国の決まりで決まるので、光熱費が上がっても利用料に乗せにくい |
| 飲食・小売・宿泊・ネットショップ | 電気と、仕入れた商品の分が多い。省エネと仕入先選びが、そのままコストになる |
| サービス業・士業 | 自分で燃やす分は少ない。ただ、取引先の大企業や役所から、取り組みを聞かれることがある |
同じ調査で、脱炭素に取り組む理由の1位は「光熱費・燃料費を減らすため」(68.5%)でした。日本は使うエネルギーの8割以上を海外から買っていて(エネルギー自給率は約16%)、電気代や燃料代は海外の値段と為替で上がり下がりします。CO2を減らすことは、光熱費を自分たちで読めるようにすることでもあります。
見分け方:自分の会社は、燃料を燃やす会社か、電気をたくさん使う会社か、物を仕入れて売る会社か。そして、大企業や役所に物やサービスを納めているか。両方に当てはまるなら、聞かれる日は近いと思います。
決算書があれば、自分の会社のCO2はざっくり出せる
決算書(損益計算書)と生成AIがあれば、自分の会社のCO2の目安を出せます。 払った金額に、環境省が公開している係数を掛けるだけだからです。その計算をAIに任せるための手順書を用意しました。ダウンロードして、そのままお使いください。
決算書からCO2をざっくり出す手順書

使い方は次のとおりです。
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 上の手順書(mdファイル)をダウンロードする |
| 2 | ChatGPT・Gemini・Claudeなどの生成AIを開き、手順書をチャット欄に添付する |
| 3 | 同じチャット欄に「添付した手順書に沿って、私の会社のCO2をざっくり計算してください。まずは質問からお願いします。」と入れて、手順書と一緒に送る |
| 4 | 「どんな会社で、どんなことをしていますか」と聞かれるので答える(事業がいくつかあれば、売上のおおよその割合も) |
| 5 | 「決算書をデータで添付してください」と言われたら、損益計算書(1年分)を添付する |
| 6 | ①②③(スコープ1・2・3)ごとのCO2と、同じ業種の目安と比べた簡易判定が出てくる |
手順書には、環境省の排出原単位データベース(Ver.3.6)から、中小企業でよく使う勘定科目に合う係数を抜き出して入れてあります。AIが勝手に数字をつくらないよう、一覧にない係数は使わないように指示しています。
出てくる数字は、金額から出した「目安」です。取引先に正式な数字として出すものではありません。ただ、自分の会社が①②③のどこに重たいのかは、これで十分に見えてきます。
ご注意:決算書などの会社の情報を生成AIにアップロードするかどうかは、ご自身の責任でご判断ください。社内のルールがある場合はそれに従い、必要なら会社名などを消してから添付してください。
まとめ
- 上場企業はすでにCO2の話を決算の報告書に書いている。そのうえで大企業は、2027年3月期から順に、仕入れた物や売った物の分までCO2を公表することになった
- CO2のどこが多いかは業界によって違う。仕入れた物や売った物の分(③)が大きい会社は、仕入先に「CO2はどのくらい?」と聞いてくる
- 中小企業の14.2%、製造業では26.0%が、すでに取引先から脱炭素を求められている
- 損益計算書(1年分)と生成AIがあれば、自分の会社のCO2の目安は出せる。まずは一度、数字を出しておくのがおすすめ
よくあるご質問
Q. うちは上場企業と直接の取引がありません。関係ありますか?
A. いますぐ聞かれることは少ないと思います。ただ、取引先のさらに先に大企業がいれば、質問は順番に降りてきます。役所や、大手の取引先から聞かれることもあります。光熱費を見直すきっかけとしても、一度数えておいて損はありません。
Q. 数えるのに、専用のソフトや費用は要りますか?
A. 目安を出すだけなら要りません。損益計算書(1年分)と生成AIがあれば、この記事で公開している手順書で計算できます。係数は、環境省が無料で公開しているものです。取引先から正式な数字を求められたら、そのときに専用のソフトや専門家を検討すれば十分です。
Q. 何から始めればいいか分からないのですが、相談だけでもできますか?
A. できます。請求書や会計データを一緒に見て、どこが多いのかを確かめるところから始められます。鳥取県内なら、鳥取県産業振興機構にも脱炭素の相談窓口があります。
聞かれる前に、一度数えておく
取引先に聞かれたらどう答えればいいか、自分の会社のCO2がどのくらいかで止まっている方は、伴走支援で、請求書と会計データを並べるところから一緒に進めています。依頼を決めていない段階でも構いませんので、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。こうした話は、毎週のメールマガジン「高林のつぶやき」でも書いています。
地産外商請負人®
株式会社ダブルノット/DX学校豊岡校
代表 髙林 努
参考にしたもの
- 金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の公布(2026年2月20日)
- 金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及び金融庁の考え方(2023年1月31日)
- 日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業の脱炭素に関する実態調査」(2026年7月16日公表)
- 資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2025年度版」
- 環境省「排出原単位データベース Ver.3.6」
- 環境省「地方公共団体実行計画(事務事業編)策定・実施マニュアル(算定手法編)」
- 環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「ANAホールディングス 取組事例2023年度」
- 環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「ローソン 取組事例2022年度」
- NTT東日本「カーボンニュートラルへの取り組み」
- Honda「Honda Sustainability Report 2024」
- 東レ「Toray Report 2025」
