ダブルノットの高林です。
先日、2026年6月22日、八頭町の隼Lab.で、BeReal.日本チームの国定希生さんをお招きして、「ほとんどの経営者・自治体が間違っている、SNS戦略の話。」という講演会を開催しました。
当日は、私が冒頭のファシリテーションをさせてもらい、なぜこの会を鳥取で開きたいと思ったのかを少しお話ししました。私が最初に出した言葉は、これです。
若者に、帰ってきてほしい。

地域の大人たちは、たぶん本音ではこう思っています。
地元を好きでいてほしい。
地域に関心を持ってほしい。
いつか帰ってきてほしい。
地元で働いてほしい。
地元で暮らしてほしい。
行政の政策や地域プロジェクトに関わっていると、こうした話は本当によく出てきます。
シビックプライドを育てたい。
若者向けの政策をしたい。
地域の魅力を発信したい。
関係人口を増やしたい。
どれも大事なことです。ただ、その次に出てくる話が、だいたいこうなります。
「じゃあ、SNSで発信すればいいんじゃないか?」
もちろんSNSは大切です。
私自身も、情報発信の重要性はずっと言い続けています。
でも、本当にそれで若者に届くのか。
そもそも、若者に届けたいと言いながら、私たちは若者のことをどれくらい言葉にできているのか。
そこに、私はずっとモヤモヤしていました。
SNSの話に見えて、実は「問い」の話だった
国定さんの講演は、いきなりSNSの使い方から始まりませんでした。
最初に出されたのは、こんな問いでした。
友人がパン屋を開くことになりました。あなたはどんなアドバイスをしますか?

価格の話をする人もいる。
ターゲットの話をする人もいる。
商品のストーリーの話をする人もいる。
パンへの情熱を確認したい、という人もいる。
いろいろな答えがありました。
でも国定さんが言われたのは、まず「Why」から入ることでした。
なぜパン屋をやりたいのか。
どんな暮らしをしたいのか。
誰に食べてほしいのか。
夫婦で静かに町のパン屋をやりたいのか。
それとも、フランチャイズ化して大きく展開したいのか。
そこが違えば、アドバイスはまったく変わります。これはSNSも同じです。
採用に困っているからInstagram。
若者に届けたいからTikTok。
地域の魅力を伝えたいからSNS発信。
そう考えてしまいがちですが、SNSはあくまで手段です。そもそも知られていないのか。知っているけれど、魅力が伝わっていないのか。興味はあるけれど、応募や購入に至っていないのか。
課題が違えば、打ち手も変わります。この話は、かなり耳が痛い内容でもありました。でも、地域や中小企業がSNSを考えるうえで、ものすごく大事な話だったと思います。
「SNSをやれば何とかなる」は、たぶん間違っている
国定さんは、300社以上の企業と向き合ってきた経験から、企業からよく持ち込まれる相談として、こういう話を紹介されていました。
「ブランディングしてください」
「売上が伸びません」
「SNSをやった方がいいですか」
「広告を出せば売れますか」
でも、それは枝葉の話であって、本当の課題はもっと根っこにあることが多い。
売上が伸びない原因は、ターゲット設定かもしれない。
商品の価値が言語化できていないのかもしれない。
費用対効果を見ていないのかもしれない。
そもそも広告やSNSでは解決できない問題かもしれない。
ここを分解しないまま、SNSだけ始めても、うまくいかない。
これは地方企業にも、自治体の情報発信にも、かなり当てはまる話だと思いました。
「若者に届けたいからSNS」
「採用したいからInstagram」
「観光客を増やしたいからTikTok」
気持ちは分かります。でも、国定さんの話を聞きながら、やっぱりそこは一度止まった方がいいと思いました。
何のために発信するのか。
誰に届けたいのか。
その人は今、何に困っているのか。
こちらは何を解決できるのか。
そのうえで、どの手段がいいのか。SNSは、その後に出てくる話なのだと思います。
バズは戦略ではなく、かなりギャンブルに近い
もう一つ印象的だったのが、バズについての話です。
「バズれば売れる」
「バズれば採用できる」
「バズれば地域の魅力が広がる」
つい、そう期待してしまいます。でも国定さんは、Twitterの公開資料「拡散の化学」の資料に触れながら、バズる現象はかなり限られたもので、1,000リポスト以上をバズの定義とした場合でも、その発生は0.1%程度だという話をされていました。
『0.1%。』
これは、もう戦略というより、かなりギャンブルに近い数字です。もちろん、バズること自体が悪いわけではありません。偶然でも大きく広がれば、それはありがたいことです。
でも、地域や会社の大事な情報発信を、そこに賭けてしまっていいのか。
私は、ここもかなり考えさせられました。
特に中小企業や地方自治体の場合、予算も人も限られています。毎日投稿して、いつかバズることを期待する。フォロワーを増やせば、いつか届くと考える。そこに月額の運用費を払い続ける。それは、本当に経営判断として正しいのか。
国定さんの話は、そこにかなり現実的な視点を入れてくれたと思います。
フォロワーを増やせば届く、も半分正しくて半分違う
フォロワー数についても、かなり具体的な話がありました。
フォロワーを増やすことは大事です。でも、フォロワーが増えたからといって、その人たち全員に投稿が届くわけではありません。国定さんは、フォロワー数の違うアカウントで投稿した場合の表示について、およそ8%程度にしか表示されないという話をされていました。
つまり、1万人フォロワーがいても、全員に届いているわけではない。
1,000人フォロワーがいても、1,000人に見られているわけではない。
ここを勘違いしてはいけないという話でした。もちろん、その8%は大事です。
すでに関心を持ってくれている人。
比較検討している人。
応援してくれている人。
そういう濃い人たちとの関係を深めるには、SNSはとても大事です。でも、それを新しい人に広く知ってもらうための認知施策だと考えると、少しズレる。
新しく魚を呼び込む話なのか。
すでに生けすにいる魚との関係を深める話なのか。
国定さんは、そういう表現で話されていました。ここは、SNS戦略を考えるうえで、かなり大切な視点だと思います。
広告宣伝費も、人件費と同じように見る
講演の前半では、広告戦略を考えるための4つのステップも紹介されていました。

- 目的を言語化する。
- 課題を分析する。
- 要件を定義する。
- 手段を最適化する。
言われてみれば当たり前のことです。でも、実際にはここが曖昧なまま、SNS運用や広告配信が始まってしまうことが多い。
- 何のためにやっているのか。
- どこまでいけば成功なのか。
- どの数字を見て判断するのか。
- いつやめるのか。
これを決めずに始めると、やめ際が分からなくなります。国定さんは、広告宣伝費も人件費と同じ粒度で見た方がいい、という話をされていました。これは本当にそうだと思います。
人を1人採用するとなれば、給与、役割、成果、継続の判断をかなり真剣に考えます。でも、広告やSNS運用になると、なぜか「とりあえず続ける」になりがちです。月に10万円、20万円、50万円を使っているのに、そのお金が何につながっているのか、きちんと見ていない。これは、地方企業に限らず、けっこう多いと思います。
SNSは無料で始められます。でも、運用するには人の時間がかかります。外部に頼めば費用もかかります。だからこそ、何のためにやるのかを言語化しないといけない。
今回の講演で、SNS戦略とは投稿テクニックではなく、事業課題をどう分解するかの話なんだと改めて感じました。
だからこそ、若者向け施策もSNSから始めてはいけない
ここで、冒頭の話に戻ります。
若者に帰ってきてほしい。
若者に地域を好きでいてほしい。
若者に地元で働いてほしい。
そう思ったときに、すぐにSNS発信へ行くのは、やっぱり危うい。若者が使っているSNSで、地域の魅力を発信すれば届く。これは、かなり短絡的なのだと思います。
まず考えるべきは、若者が何に困っているのか。何を求めているのか。この地域は、その困りごとや願いに対して何を返せるのか。帰ってくる理由、関わり続ける理由をどう設計するのか。そのうえで、どこで、どう伝えるのか。SNSはその後です。
だから今回の講演は、SNS戦略の話でありながら、実は若者理解の話でもありました。
そして、ここから後半のZ世代の話につながっていきました。
若者は、そんなに単純ではない

若者はタイパ重視。
コスパ重視。
恋愛しない。
残業しない。
納得しないと動かない。
そんな言葉で語られることがあります。でも、国定さんの話を聞くと、そんなに単純ではないことがよく分かります。
生まれたときからSNSがある世代。常に誰かに見られている感覚の中で育ってきた世代。自由に見えて、実はかなり気を使いながら生きている世代。自分らしくいたいけれど、周囲の反応も気にせざるを得ない世代。印象的だったのは、「感情の逆輸入」という話でした。
うれしいことがあったときに、すぐに自分で喜ぶのではなく、まずSNSに投稿する。そこで周りの反応を見て、ポジティブに受け止められていることを確認してから、ようやく自分も喜べる。
かなりしんどい話です。
もちろん、すべての若者がそうだという話ではありませんが、ただ、SNSが日常に深く入り込んでいる世代の感覚として、私たち大人側が知っておくべきことだと思いました。
「界隈」と「居場所」
もう一つ印象に残ったのは、「界隈」の話です。
美容界隈、ゲーム界隈、散歩界隈、キャンセル界隈。
いろいろな界隈があります。これは単なる流行語ではなく、若者が自分の居場所を探す言葉でもあるのだと思います。
全員に理解されなくてもいい。
でも、自分を肯定してくれる小さな場所がほしい。
自分らしくいられる関係性がほしい。
そこにいることが、少し安心につながる。
大きく開かれた場よりも、分かってくれる人たちとつながれる場。
若者に届くというのは、単に情報を届けることではなく、その人が関わってもいいと思える理由や、居場所をつくることなのかもしれません。
若者に帰ってきてほしい、だけでは届かない
今回、私がいちばん考えたのは、やはりここです。
若者に帰ってきてほしい。
地域の大人たちは、きっとそう思っています。私も、その気持ちはよく分かります。でも、そこで止まってはいけない。
- なぜ帰ってきてほしいのか。
- どんな若者に帰ってきてほしいのか。
- その若者に、この地域は何を返せるのか。
- 地元で働くこと、暮らすこと、関わることに、どんな意味をつくれるのか。
そこを考えないまま、
「地域の魅力をSNSで発信しよう」
と言っても、届かない。若者に届けたいなら、まず若者を言語化すること。若者を理解しようとすること。そして、大人側の願いもちゃんと言語化すること。
「帰ってきてほしい」という言葉の中に、何を込めているのか。
そこから考える必要があるのだと思います。
SNS戦略の話ではなく、地域の根っこの話だった
今回の講演は、タイトルだけ見るとSNS戦略の話です。でも私にとっては、地域づくり、採用、観光、教育、中小企業の情報発信、全部につながる話でした。
- 若者に選ばれる地域とは何か。
- 若者に選ばれる会社とは何か。
- 若者が関わりたいと思う場とは何か。
それを考えるための入口として、SNSやZ世代の話があったのだと思います。国定さんのお話は、東京の最新SNS事情を聞く時間ではありませんでした。鳥取のような地域でこそ、今ちゃんと考えないといけない話でした。
講演から少し時経った今、改めて思います。
- 若者に帰ってきてほしい。
- 若者に地域を好きでいてほしい。
- 若者に地元で働いてほしい。
そう願うのであれば、まず私たち大人側が、若者のことを分かったつもりで語るのをやめること。そして、「若者とは?」「この地域にとって、若者とは誰なのか?」「若者に何を求め、何を返せるのか?」そこを、ちゃんと言語化すること。
今回の講演会が、そのきっかけになっていればうれしいです。
講演前に、八頭町の矢部町長を表敬訪問しました
実はこの講演が始まる前に、国定さんと一緒に、八頭町の矢部啓介町長を表敬訪問してきました。

矢部町長は、今年4月に町民の負託を受けて就任されたばかりです。
私にとって矢部町長は、ほぼ同じ時期に東京から故郷に帰ってきた友人でもあります。
一時期は、同じ隼Lab.の住人として、いろいろな話をしてきた仲でもあります。
矢部町長も、東京の大企業で働いた経験を持ち、そのうえで思いを持って、故郷である鳥取県、そして生まれ故郷である八頭町に帰ってきた方です。
今回の講演テーマは、若者に帰ってきてほしい。でした。
人口減少対策や、地域産業の担い手づくりを考えたとき、若者政策は八頭町にとっても一丁目一番地の課題だと思います。その難しいテーマを考えるうえで、国定さんの話の中に、何か糸口や一歩目が見えるのではないか。
そんな思いもあり、講演前に矢部町長を訪問させていただきました。
就任早々、いろいろなことに挑戦し、うまくいかなかった話も、矢部町長は笑顔で話されていました。
国定さんはそれを肯定しながら、
「でも、こうしたらよかったかもしれませんね」
という視点も出されていました。
私もそこに少し加わらせてもらいながら、1時間ほど意見交換をさせていただきました。

その中で、多くの時間を使って話したテーマの一つが、若手職員のやりがいでした。
八頭町における若者雇用を考えたとき、ある意味で一番大きく門戸を開いているのは、役場の新卒採用なのだと思います。
- 若い人が八頭町に帰ってくる。
- 八頭町で働く。
- 八頭町の未来をつくる側に回る。
その入口として、役場という職場がどう見えているのか。若手職員がどんなやりがいを持てるのか。そして、その姿が地域の若者にどう伝わっていくのか。
これは、今回の講演テーマである「若者に、八頭町に帰ってきてほしい」を考えるうえで、とても大事な材料だったと思います。
今回の講演には、矢部町長をはじめ、八頭町役場の皆さんにも多く参加いただきました。私自身も、八頭町に会社を構える経営者として、これまで事業の基礎をつくる機会をいただいた八頭町に、少しでも恩返しができるようにしたいと思っています。

若者に帰ってきてほしい。
その言葉を、ただの願いで終わらせないために。
これからも、地域の皆さんと一緒に、考え、動いていきたいと思います。
ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
そして国定さん、鳥取までお越しいただき、本当にありがとうございました。
情報発信協力枠で参加いただいた方の感想も紹介します
今回の講演会では、「情報発信協力枠」として、参加後にそれぞれの視点で記事を書いていただく枠も設けました。
その方々の記事も、少しずつそろってきましたので、こちらでも都度紹介していきます。
